東京地方裁判所 昭和45年(ワ)683号 判決
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〔判決理由〕一 原告ら主張一の事実および同二の事実中、被告が中央道の建設および管理にあたつている者であることは当事者間に争いがない。
二 そこで以下、被告に中央道の設置および管理上の瑕疵がああつたか否かについて判断する。
(一) 原告はまず、本件中央道が安全、高速走行の設計であることおよび中央分離帯の設置があることの高速道路としては必須の要件を欠くにもかかわらず、変則二車線のまま高速道路として開設供用した点に設置管理の瑕疵がある旨主張する。そこでこの点について判断する。
<証拠>および検証の結果ならびに弁論の全趣旨によると、次の事実が認められ、これに反する証拠はない。
本件中央道は高速自動車国道法第四条一項にもどづく昭和三二年政令第二七五号により、指定された高速自動車国道であること、高速自動車国道法は、路線の指定、整備計画、管理、構造、保全等に関する事項を定め、高速自動車国道の整備を図り、自動車交通の発達に寄与することを目的とする法律であるが、同法五条の整備計画にもとづき道路整備特別措置法二条の二により、被告日本道路公団に対し、建設大臣から、八王子市から富士吉田市まで、暫定的に二車線の完成をもつて供用を開始し、交通量の増加に応じ残りの二車線部分を完成する、設計速度は同区間時速八〇キロメートルとする旨の内容の施行命令が出されたこと、同施行命令に基づき昭和三七年一〇月から工事にかかり、昭和四二年一二月一五日調布・八王子間18.1キロメートル、昭和四三年一二月二〇日八王子・相模湖間19.6キロメートル、昭和四四年三月一七日本件事故現場を含む相模湖・河口湖間47.4キロメートルについて順次供用が開始されたこと、
同道路の設計速度は時速八〇キロメートルであつたが、供用の際には、二車線区間は最高速度を時速七〇キロメートルとしたこと、
本件事故現場付近の中野トンネルは、その前にある大田トンネル、斧窪第一、第二、第三トンネルとともにすべて制限速度を時速六〇キロメートルとされていたこと、道路交通法七五条の四によると、高速自動車国道については、政令で定める基準により、その左側部分の高速通行路に二又は三の車両通行帯を設けなければならない、とされているが、本件中央道における二車線区間は、右二又は三の通行帯が設けられていないため、被告および警察庁、建設省等の協議の結果、道路交通法施行令二七条の三の三・四の定める最高速度一〇〇キロメートル〜八〇キロメートル、最低速度五〇キロメートルとせず、前記の速度制限を行なうこととしたこと、
以上の通り、本件事故現場を含む二車線区間は高速自動車国道ではあるが、高速通行路としては供用されていなかつた。(前掲証拠から、将来四車線になつた場合、右区間は現状のまま上り線として使用できるように設計されていたことが認められるが、これがため、片側が下り車線として運転に支障を及ぼすような安全に欠ける道路となつたことを認めるに足りる証拠はない。)
もとより、原告らの指摘のとおり、中央分離帯を設ければ対向車と正面衝突による事故は激減し、その意味で安全性が高まることは否定できない。しかし、本件二車線部分は時速八〇キロメートル以上の走行が予定される高速通行路として供用されていなかつたのであり、これに東名、名神両高速通行路(四車線以上)における分離帯の設置の基準を用いることは相当でないと言うべきである。また本件事故当時において二車線区間に中央分離帯が設置されている例は稀有であり、我国の道路水準から言つても、これに中央分離帯を設けなかつたことをもつて道路の瑕疵とは言いがたい。さらに中央に分離帯を設ければ、大型トラックやクレーン車、牽引車等の比較的低速車によつて事実上道路が部分的に閉塞されることとなり、自動車専用道路としての効用を著しく減殺することになりかねず、又、国道二〇号線の混雑振りから言つて、二車線のまま供用を開始したこと自体を責めることはできない。
(二) 次に原告らは本件事故発生地点においては、下り方向を走行する車両は、そのほとんどがセンターラインを越えて進行するから、道路構造上、勾配、カーブ、トンネル出入口前後の視距範囲、道路標識、レーン・マークの幅等の諸点に欠陥があつた旨主張する。
本件全証拠によるも、本件事故現場地点においてほとんどの下り線通行車両がセンターラインを越えて走行していることを認めるに足りる確証はない。しかしながら、中央道は自動車専用道路であつて、十字型交差点もなく、信号機による停止もなく、歩行者も通常考えられないところから、法的には高速通行路として供用していなくても、通行料を支払つて中央道を走行する運転者としては事実上高速通行路と同様なスピードの違法運転を行なうことは推測に難くない。この意味において危険性は高いと言うべきであり、直ちに一般道路と同様な規制でよいかは疑問の生ずるところである。しかし、この点は交通行政・自動車の設計速度違法精神の問題であり、このような違法運転を当然予測してこれを物理的に不可能ならしめるまでの道路を設置しなければならないとは言いがたい。前掲証拠によると、本件事故現場付近の道路の状況、交通規制については別紙図面のとおりである。勾配、カーブ視距範囲に、運転上支障を及ぼすような異常な個所はなく、現実に走行して見ても何等運転上の困難を感ずるような場所ではない。レーンマークについては、一本から三本に事故後変更されていることは当事者間に争いがなく、このレーンマークが一本のペイントで標示されているより、三本の方がより目につき易いことは一般に言えるが、現在追越禁止の黄色の線の標示は通常道路中央に一本であることは当裁判所に顕著であり、前記事実上高速通行路として走行される点を考慮しても、一本だからと言つて直ちに瑕疵とは言いがたい。チャッターバーも事故後設置されたことは当事者間に争いがない。これに現実に走行中乗り上げてみると車体、ハンドルに振動を来たし、これが運転者の心理に影響を与えて追越しを抑制する作用を多少持つことは、検証の結果から明らかである。しかし二車線道路において、路上にこのような突起物を設置することは又一つの危険を招来する。けだし、タイヤ径の小さい車や二輪車においては、これに乗り上げた場合、ハンドル車体に相当の影響を与え、あるいはハンドルをとられ、あるいは転倒するなどして事故を起すことにもなりかねない。現在京浜第二国道(都内部分)、明治通りの一部などのセンターライン上にこの種の突起物を設置して、センターラインオーバーの防止をはかつていることは当裁判所に顕著である。しかしこれらはいずれも四車線以上の道路であつて、二車線道路ではない。それ故これを設置していなかつたことをもつて道路の瑕疵とは言いがたい。
(三) 次に原告らは被告が何ら効果的なパトロールを行つていない点を指摘するが、本件事故が路上の落下物を長時間放置していたことや、道路面の欠損によつて生じたものである場合にはともかく、このような点についての主張はなく、又本来交通取締の役目を被告が負つているとも解しがたいので、被告にパトロール上に不十分な点があつたことを前提とする原告らの主張は理由がない。
よつて、原告らの本訴請求は、爾余の点を判断するまでもなく、理由のないことが明らかであるから、これを棄却することとし、訴訟費用については民訴法八九条、九三条を適用し主文のとおり判決する。
(坂井芳雄 小長光馨一 佐々木一彦)